糖尿病性腎症──腎臓の合併症

合併症

健康診断で「尿にたんぱくが出ている」「腎機能の数値が少し下がってきた」と言われて不安になった方もいるかもしれません。糖尿病性腎症は、腎臓の細い血管が高血糖で少しずつ傷んでいく合併症です。日本では長らく透析導入の原因の第1位を占めてきましたが、逆に言えば早く見つけて血糖・血圧・生活を整えれば、進行はかなり抑えられます。ここでは仕組みから病期の考え方、日々できる対策までをやさしく整理します。

この記事のポイント

  • 腎臓の細い血管(糸球体)が傷む、糖尿病三大合併症「しめじ」の「じ」
  • 初期は自覚症状に乏しいことが多い。尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)とeGFRで症状が出る前に見つかる
  • 病期は尿アルブミンと腎機能(eGFR)を組み合わせて分類する(必ず第1期から順に進むとは限らない)
  • 血糖・血圧の管理に加え、病状に応じて腎保護効果が示された治療薬も検討される
  • 近年は「糖尿病関連腎臓病(DKD)」という広い概念でも捉えられている

腎臓はどんな臓器?なぜ糖尿病で傷むのか

腎臓は、血液をこして老廃物や余分な水分・塩分を尿として排泄する、体の「ろ過装置」です。この“こし器”の役割を担うのが、毛細血管がまり状に集まった糸球体(しきゅうたい)という細かな組織です。高血糖が続くと、この糸球体の細い血管が傷み、ろ過機能が少しずつ低下していきます。すると本来なら体にとどめておくべきたんぱく質(アルブミン)が尿にもれ出し、進むと老廃物がうまく排泄できずに体にたまり、むくみや高血圧、貧血などが現れます。

早期発見が命──尿中アルブミンとeGFR

糖尿病性腎症のこわいところは、かなり進むまで自覚症状がほとんど出ないことです。だからこそ、症状ではなく検査で先回りして見つけます。中心となるのが次の2つです。

  • 尿アルブミン/クレアチニン比(UACR):ごく初期の、ほんのわずかなアルブミンのもれを鋭敏にとらえる検査(単位はmg/gCr)。一般的な尿たんぱく検査では引っかからない早い段階で異常が分かります。ただし尿アルブミンは採尿条件や運動・発熱などで変動し、他の腎疾患でも増えるため、単回の異常だけで糖尿病性腎症と確定はできず、複数回の測定と原因の評価が必要です。
  • eGFR(推算糸球体ろ過量):血液中のクレアチニン値と年齢・性別から、腎臓がどれくらいろ過できているかを推定した数値(単位はmL/分/1.73m²)。腎機能全体の“成績表”です。

これらは症状がなくても年1回以上のスクリーニングが目安とされます。すでにアルブミン尿や腎機能の低下がある場合は、重症度や変化に応じて検査間隔を短くして(例えば数か月に1回など)経過を追うことがあり、間隔は主治医が判断します。早期に見つかれば、生活と治療の調整でアルブミン尿の減少・寛解や腎機能低下の抑制が期待できる段階もあります(一方で、慢性的に低下してしまった腎機能そのものを元に戻すことは一般に難しいとされています)。

病期の考え方(アルブミン尿とeGFRで分類)

糖尿病性腎症は、尿アルブミンの量と腎機能(eGFR)の組み合わせで段階的に整理されます。おおまかなイメージは次の通りです。

段階のイメージ 尿アルブミン/腎機能 主な状態
第1期(正常アルブミン尿期) UACR 30未満・eGFR 30以上 自覚症状に乏しいことが多い。ただしこの段階でも腎機能低下を伴うことがあり、早期からの管理が重要(どの病期でも継続した管理が必要)
第2期(微量アルブミン尿期) UACR 30〜299・eGFR 30以上 自覚症状に乏しいことが多い。介入で改善も期待できる時期
第3期(顕性アルブミン尿期) UACR 300mg/gCr以上(または尿たんぱく/クレアチニン比 0.5g/gCr以上)・eGFR 30以上 無症状のことも多いが、たんぱく尿の程度や腎機能低下に応じてむくみなどが現れることがある(高血圧はより早い病期からみられる)
第4期(GFR高度低下・末期腎不全期) アルブミン尿の量を問わずeGFR 30未満 老廃物の蓄積・貧血など。透析が視野に
第5期(腎代替療法期) 透析療法中または腎移植後 透析・移植による治療

これは2023年の学会合同の病期分類(尿アルブミン/クレアチニン比 mg/gCr と eGFR mL/分/1.73m² の組み合わせ)にもとづくおおまかな整理です。なお、アルブミン尿が正常でもeGFR 60未満が3か月を超えて続けばCKD(慢性腎臓病)に該当するため、腎症の病期とは別にCKDの重症度も評価し、糖尿病以外の腎疾患がないかも併せて確認します。必ず第1期から順番に進むわけではなく、実際の病期分類・治療方針は主治医が総合的に判断します。近年は、典型的なアルブミン尿を伴わずに腎機能が低下する例も含めて、糖尿病に関連する腎障害を広くとらえる「糖尿病関連腎臓病(DKD:Diabetic Kidney Disease)」という概念も使われるようになっています(ただし糸球体腎炎など別の明らかな原因による腎臓病は区別して考えます)。

進行を防ぐためにできること

腎臓を守るうえで、血糖だけでなく血圧の管理と減塩が特に重要とされています。

  • 血糖コントロール:良好な血糖を保つことが土台。目標値はHbA1cの目標の記事もあわせて参考に。
  • 血圧管理:高血圧は腎臓に大きな負担。家庭血圧の測定が役立ちます。腎保護の観点から用いられる降圧薬もありますが、選択は主治医が判断します。
  • 減塩:塩分のとりすぎは血圧を上げ、むくみの原因にも。まずは加工食品・汁物・麺類の汁に注意を。
  • 禁煙・脂質管理・体重管理:血管全体を守ることが腎臓の保護にもつながります。
  • たんぱく質の量:病期によっては摂取量の調整をすすめられることがあります。自己判断で極端に制限せず、必ず主治医・管理栄養士に相談を。
  • 腎保護をめざす治療薬:2型糖尿病に伴う腎障害では、病状や適応に応じて、腎保護効果が示された治療薬(SGLT2阻害薬など)が検討されることがあります。使うかどうかは主治医が判断します。

よくある質問

Q. 尿にアルブミンが出ていると言われました。もう透析になるのですか?

A. アルブミンが出ている=すぐ透析、ではありません。アルブミン尿だけで透析の必要性やその時期は判断できず、eGFR(腎機能)やその低下速度、症状などを併せて評価します。ごく微量の段階でも腎機能低下を伴うことがあるため、量にかかわらず主治医と一緒に確認していくことが大切です。早く気づけたなら、この時期に血糖・血圧・減塩を整えることで進行を抑えたり改善が期待できる場合もあり、前向きにとらえてよいものです。

Q. 腎臓が心配なので、たんぱく質を自分で減らした方がいいですか?

A. 自己判断での極端な制限はすすめられません。必要なたんぱく質量は病期や体格によって異なり、減らしすぎると栄養状態が悪くなることもあります。主治医・管理栄養士と相談のうえで調整してください。

この記事は一般的な情報です。診断・検査計画・治療や食事の具体的な方針は、必ず主治医にご相談ください。

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